それは、恋でした。②

 

 

 

※物語や登場人物は全てフィクションであり実在する全ての事柄とは無関係です。

※初めて綴るので浅い部分もあるかと思いますが自己満なので許してください。

 

 

 

主人公・西宮りん

高校三年生の女子。ミディアムヘアで眼鏡。クラスでは教室の隅で本を読んでいる。同じクラスの矢田世菜が唯一の友達で親友。家でうさぎを飼っていてよく話しかけている。背丈は150cm台後半。

 

相原くん

りんと同じクラスの男子。高校ニ年生の春に大阪から転校してきた。関西弁がたまにでる。俗に言う陽キャラで、男女問わず愛されている。ハスキーボイス。有り余るほど元気に見える。背丈は169cmくらい。

 

 

 

 

 

 

「ねえ、何読んでんの?」

 

声が聞こえると、静かな教室にそよ風が吹いた。

 

その人は私以外の誰かに話しかけているのだろうと思い、何もなかったかのように本を読み進めた。でも、この教室には私一人しか…

 

「おーい、西宮さん?」

「…っ、!」

 

返事をしようと文字を追う目を止めて声の先を見ると、目の前に男性の顔があった。

あと少しでも動けば鼻が触れてしまいそうな距離に、思わず本を隠して俯いてしまう。

あんなに近くで私の顔を見たら嫌だっただろうと思い、目の前の男性に今すぐにでも謝りたくて、そのまま謝罪の言葉を伝えた。

 

「す、すみません…」

「何で謝るん?(笑) 顔上げて?」

「い、いや…でも…」

 

「あ、UFO」

「え」

 

UFOに釣られて顔を上げると、そこには、前の席の椅子の背を前にして座り、目尻に皺を作って私にニコッと満面の笑みで笑いかけている日向くんがいた。

 

そんな彼と目が合って心臓がトクッと動いた気がしたが、知らないふりをした。

 

ドキドキや好きな気持ちは本の中だけで味わえばいい。ましてや高校三年生、半年後には受験を控えているため、今の私には関係のないことだと思った。

 

そして私は、こんなに至近距離で男性を見たことが初めてだった。あの状況なら、彼でなくてもどんな男性でもドキッとしていただろう。

冷静になり、話を戻した。私はUFOが気になるのだ。

 

「あの、UFOはどこでしょうか、?」

「おらへんよ」

「…へ?」

 

嘘をつかれていた。

文字や映像でしか見たことのないUFOを肉眼で捉えられるとワクワクしていたのに、私は彼に嘘をつかれていた。

 

考えてみれば、ここにUFOが飛んでいれば教室中、いや、全校中、それどころか街中が大騒ぎになっていただろう。

冷静でなかった私も私だった。

 

「…こっちを見てほしくて、嘘、つきました。ごめんね」

「…いえ、全然」

 

真剣に謝ってくれる彼を見ていると、“嘘をつかれていた”なんて言葉も棘のように思えてくる。

 

「でも、西宮さんが必死でUFO探してる姿めちゃめちゃ面白かった(笑)」

「それは記憶から消してください…」

 

近くで見てみると、整った顔だ。

丸っこくて子供っぽい髪型に、大きいとは言えないがくりっとしていて若干つり気味な目とふっくらとした涙袋、鼻筋の通った鼻、赤みがかった白めな肌という中世的な見た目に反して、肩幅はしっかりとしていて手も首もゴツゴツとしている。あ、頬の端には薄いホクロもあるんだ。

 

「ん?どした?」

「あっ、いえ、!」

 

顔を見て脳内で文字に起こしていたなんて言えるはずがない。

そんなことを伝えれば校内の笑い者にされる。

焦って返事をしてしまった私の声色から、余計に勘繰らなければいいのだけれど。

 

「で、何読んでるの?」

「へ、?あっ、太宰治、です」

「へ〜太宰読んでるんだ!意外だね」

「意外、?」

「うん。意外っていうか、ほっこりする本を読んでると思ってた!」

 

どちらかというと大きめの口を動かしながら楽しそうに話す彼が、私も意外だった。

こんな話もしてくれるんだ。

 

「実は僕も太宰読むねんなぁ」

 

そう言うと、彼はもう一度目尻に皺を作りくしゃっと笑った。

正直、私よりも彼が太宰を読んでいることのほうが意外なのではないだろうか。

彼こそ、ほっこりとした本や、更に言えば漫画などを読んでいそうなのに。太宰を読む人だったなんて、イメージと反していて不思議だ。

 

そんなことは偏見になるので言えず、私は彼にテンプレートのような質問をした。

 

「好きな作品は、!」

「んーとねえ…」

 

その言葉を皮切りに、私たちは部活が終わるまで話し続けた。彼の顔色も伺わずに、私は夢中で話を広げ続け、彼はうんうんと話を聞いてくれるから、ついいつもの癖で早口で話してしまった。

気持ち悪がられてなければいいのだけれど…

もしそんなことがあれば、明日の朝は「西宮りんはキモい!」という噂が流れるに違いない。

ああ、やってしまった。

 

「あのっ、すみません、」

「ん?どうしたの?」

「その、すごい勢いで話してしまって、申し訳ないです…」

 

まだ会話し始めて初日なのに、何故こんなに彼と話してしまったのか。ここまでの会話を全て録音していたり、それを晒し上げたり、もしや何か意図があるんじゃないか。

そう思いかけたが、私を見ている彼の目はそんなんじゃなかった。

 

「申し訳ないなんて要らんよ。それだけ好きってこと、素敵じゃん」

 

「でも、気持ち悪いとか思いませんでした?」

 

「そんなこと思わんって(笑) 西宮さんは西宮さんのままでいいんだよ」

「…」

 

「あ、西宮さんのままで “いてほしい” のほうが正しいかな」

 

「私のまま、で…」

「そう。ありのままが一番素敵やで」

 

顔を覗き込むようにして微笑む彼の目に一切濁りは無く、優しい目をしていた。

こんな優しさを貰ってもいいのだろうか。

長らく目が合っていて、流石に恥ずかしくなってしまって、思わず目線の先を時計に移した。

 

「…あ、」

 

時計の針は18時過ぎを指していた。

そろそろ部活も終わる時間だ。既に活動を終えて校門をくぐる生徒もちらほら見えた。

 

「やっば!今日習い事あるんやった!」

「…へ?」

 

急にそんなことを言い出した彼は、慌てた様子で荷物をまとめ、席を立つ。

 

「大丈夫なんですか、?」

「大丈夫大丈夫!走れば間に合う!」

 

この人は本当にポジティブだ。

今日初めて話して分かった。傘を忘れた日には傘を刺さずに雨すらも楽しむような、眠れなければその夜は自分の好きなことをしようと考えられるような、彼は「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」を体現したような人だ。

 

「また明日、話そうね!」

「明日は土曜日です、!」

 

「じゃあ…来週か!またね!」

「はい…」

 

彼は慌てた様子で教室を出て行った。

彼のいなくなった教室には私一人だけで、静かな空間が広がり、先程までの彼が如何に話してくれていたのかが身に染みた。

 

私も帰ろう、そう鞄に荷物を詰めている中、朝の世菜の言葉を思い出した。

 

「もしかしたら日向くんは、りんと話してみたくて毎日挨拶してくれてるのかもよ?」

 

いやいや、そんな訳!

私と話してみたくて?あんな人があり得ない。

もし世菜の言っていたことが本当だとしても、私と話してみたい理由が一つも思い浮かばない。私の想像を遥かに超える人気者だろうし、沢山の人から好意を寄せられているだろうに。

…本当、外から中まで、とことん不思議な人だったなあ。

 

「また来週、か…」

 

何だろう、この胸のソワソワは。

クラスの中心で笑っている彼が、何で私なんかに優しくしてくれるのだろう、何で話しかけてくれたのだろう。

今はそんなことよりも、私と話しているときの笑顔や、一つ一つの言葉を思い出して、考えれば考えるほど落ち着かなくなる。

 

身体中の血液が顔に集中している気がするのは、教室の窓を閉め切ったからだろうか。顔がどんどん熱くなっていくのが分かる。

 

私の目に小さく映る、走って校門をくぐる日向くんを窓越しに見つけて、ふわふわとした気分になる。

 

顔周りの火照りがバレないよう、俯いて髪の毛で隠して、今日は誤魔化した。

 

 

この気持ちを知る日は、もうすぐ。

 

 

 

 

 

つづく